「歩いていると、乗り物に酔ったような気持ち悪さが出てくる」「人混みを歩くとつらい」「地面のブロックタイルの模様を見ていると気分が悪くなる」——そんな症状にお困りの方がいらっしゃいます。
ご本人にとっては原因がわかりにくく、周囲にも伝わりにくい症状です。この背景に、ご病気による視野の欠けが関わっていることがあります。
同側半盲とは——両目の同じ側の視野が欠ける状態
同側半盲(どうそくはんもう)とは、右目・左目それぞれの視野のうち、同じ側の半分が見えなくなる状態のことです。たとえば「両目とも右半分が見えない」「両目とも左半分が見えない」という形で現れます。
脳梗塞・脳出血・脳腫瘍・頭部外傷などによって、目から入った情報を脳へ伝える経路が障害されることで起こります。目そのものではなく、脳の側に原因があるという点が特徴です。
なぜ「乗り物酔い」のような気持ち悪さが起こるのか
私たちが歩いたり立ったりするとき、体は複数の感覚を同時に使ってバランスを取っています。
視覚
目から入る、周囲の景色や動きの情報
三半規管
耳の奥にある、体の傾きや回転を感じる器官
足の裏などの感覚
地面を踏む感触や、筋肉・関節からの情報
脳はこの3つの情報を照らし合わせて、「今、自分はこう動いている」という一つの感覚をつくっています。ところが視野の半分が欠けていると、視覚から届く情報だけが偏った状態になります。
体は「まっすぐ歩いている」と感じているのに、視覚から届く情報はそれと噛み合わない。このギャップを脳が処理しきれなくなったとき、乗り物酔いとよく似た気持ち悪さが生じることがあります。
乗り物酔いも「目で見ている動き」と「体で感じている動き」がずれることで起こる現象なので、仕組みとしては近いものです。
人混みやブロックタイルで症状が強まる理由
動くものが、突然視界に出入りする
人混みや交通量の多い道では、人や車が絶えず動いています。見えていない側から突然人が現れたり、逆に目で追っていた対象が欠けた視野に入って急に消えたりします。予測と実際の見え方が食い違う場面が連続するため、脳の負担が大きくなります。
規則的な模様が処理の負担になる
ブロックタイル・敷石・階段・縞模様など、同じ形が繰り返される地面や壁は、それ自体が視覚的な情報量の多い対象です。視野が欠けている状態では模様の全体像をつかみにくく、「どこを見ているのか」の手がかりが得にくくなるため、気分の悪さにつながることがあります。
ヨークトプリズムという選択肢
眼鏡でできる工夫のひとつに、ヨークトプリズムという手法があります。プリズムという言葉は聞き慣れないかもしれませんが、光の進む向きを曲げることで、ものの見える位置をずらすレンズのことです。
ひとくちにプリズムと言っても、使い方によって役割が大きく変わります。
| 一般的なプリズム | ヨークトプリズム | |
|---|---|---|
| 入れ方 | 左右の目に、異なる向きで入れる | 左右の目に、同じ向きで揃えて入れる |
| 働き | 左右の視線のズレ(斜位)を補正し、両目の連携を整える | 見えている空間そのものを、まとめて一方向にずらす |
| 主な目的 | 目の疲れ・頭痛・ものが二重に見える症状の軽減 | 視野の偏りや空間の感じ方のバランスを整える |
同側半盲の場合、欠けている側の情報を見えている側へ寄せるようにヨークトプリズムを使うことで、これまで捉えづらかった範囲の情報を拾いやすくすることが期待できます。
視野の欠け自体が元に戻るわけではありません。けれども、視覚から入る情報と体の感覚とのギャップが小さくなることで、あの独特の気持ち悪さが和らぐ可能性があります。
店内だけでなく、実際に街を歩いて確かめる
この症状で難しいのは、お店の中の静かな環境では再現できないという点です。人が行き交うわけでも、車が流れるわけでもない室内で「よく見える」と感じても、それが日常のつらさの軽減につながるとは限りません。
ご病気により同側半盲となり、視野の左右差からくるめまいや気持ち悪さにお困りの女性からのご相談でした。歩いている際に、体(三半規管や足の裏)で感じる感覚と視覚情報とのあいだに差が生じ、乗り物酔いに似た症状が出ていらっしゃいました。
人混みや地面のブロックタイルなど、動くものや規則的な模様が視界を出入りする場面でも、同じように気分が悪くなる傾向がありました。
そこでヨークトプリズムを用い、欠けている側の視野を補うご提案をすることに。確認は店内だけで終わらせず、お店の周辺を一緒に歩いていただき、実際の人や車の流れの中でどう感じるかを確かめていただきました。その場で効果を実感していただくことができました。
視覚情報と身体の感覚のギャップを小さくし、バランスを整えること。その大切さを、あらためて学ばせていただいた機会でもありました。
こんな症状に心当たりがある方へ
- 歩いていると乗り物酔いのような気持ち悪さが出る
- 人混みを歩くと、特に疲れる・気分が悪くなる
- 地面のタイルや階段の模様を見ていると具合が悪くなる
- ご病気のあと、見え方や体のバランスが変わった気がする
- 視野が欠けていると診断されたが、日常のつらさの相談先がわからない
眼鏡処まどかでの取り組み
眼鏡処まどかでは、視力の数値だけを見るのではなく、その方が日常のどんな場面で、どのように困っていらっしゃるかを丁寧に伺うところから始めています。同側半盲のように医療的な背景がある場合は、主治医の診療を受けていただくことを前提に、生活の中での見えづらさやつらさを眼鏡の側から軽くできないかを一緒に考えます。
必要に応じて、お店の外を一緒に歩きながら効果を確かめていただくこともあります。実際の景色の中で確かめていただくことが、なにより確かな判断材料になると考えているためです。
八王子の眼鏡処まどかでは、予約優先制で一人ひとりの見え方に向き合っています。「相談だけでも」「今の眼鏡を見てほしい」という方もお気軽にどうぞ。

