宮城県からお越しくださったF様のお話です。

左右の度数差が大きい「不同視(ふどうし)」という状態の目をお持ちで、メガネは長年ご使用でした。

ただ、いまひとつ見え方に満足できていない。何とか改善する余地はないか——そうお考えになり、眼鏡処まどかに興味を持ってご来店くださいました。

不同視とは——左右の度数差が大きい状態

不同視とは、右目と左目で度数(近視や遠視の強さ)に大きな差がある状態のことです。「ガチャ目」と呼ばれることもあります。

一般的には左右差が2D(ディオプター)以上を目安とすることが多いのですが、実際にどこから困りごとが出るかは、数値だけで決まるものではありません。

片方は遠くも近くも裸眼で見えるのに、もう片方は遠くがぼやけてしまう、といったケースがこれにあたります。

視力そのものは矯正すれば出せることも多いのですが、問題は「両目で見たときの感覚」に生じます。

不同視のメガネで起こりうる、2つの問題

不同視のメガネが難しいと言われる理由は、ひとつではありません。性質の異なる2つの問題が同時に起こりえます。

問題① 不等像視——左右で像の大きさが変わる

レンズを通してものを見ると、実際とは少し違う大きさに見えます。度数が強いほどこの変化も大きくなるため、左右の度数差が大きいと、右目で見ている像と左目で見ている像の大きさが違ってしまいます。これを不等像視(ふとうぞうし)といいます。人は本来、左右の目から入った映像を脳の中で一つにまとめて見ています(融像といいます)。融像の際にある程度は脳が大きさの違いの補正をしてくれるのですが、一定以上の差が生じると補正しきれず、両目で物を見た際に違和感が生じます。

問題② プリズム誤差——視線を下げたときの眼の負担

レンズは、光学中心から視線が外れるほどプリズム作用(像をずらす働き)が生じます。この量は度数が強いほど大きくなります。つまり左右の度数が違うと、手元の本を見るときのように視線を下げた瞬間、左右で上下方向のずれ量に差が出ます。このずれを目の筋肉が補正しようとするのですが、上下方向のずれを補正することはとても負担が大きく、特に近くを見る作業での疲れや違和感につながります。

「片方の度数を弱める」という教科書的な対応と、その限界

この問題への対処として広く知られているのが、度数が強い方の目の度数を、あえて弱めに設定するという方法です。

像の大きさの差を縮めることで、融像の負担を軽くしようという考え方です。これは理にかなった対応であり、多くの場合で有効です。

ただし、この方法にも代償があります。

  左右ともしっかり矯正する 強い方の度数を弱める
視界の鮮明さ 左右とも鮮明に見える 弱めた側の鮮明さが落ちる
像の大きさの差 差が大きく残る 差が小さくなる
起こりやすい違和感 融像しづらく、疲れや違和感が出ることがある 左右の鮮明度の差が気になることがある

つまり、あちらを立てればこちらが立たず、という状態になりがちなのです。

F様も例に漏れず、片方の目の度数を弱めたメガネをお使いでした。

適応できる人とできない人を分けているもの

ここで知っておいていただきたいのが、不同視には性質の異なる2つのタイプがあるということです。

ひとつは軸性の不同視。目の奥行き(眼軸長)の左右差によって生じるものです。もうひとつは屈折性の不同視で、角膜や水晶体の屈折力の左右差によって生じます。

理論上は、軸性の場合はメガネで矯正した方が左右の像の大きさの差が小さくなり、屈折性の場合はコンタクトレンズの方が有利になるとされています。

ただし、実際のところは軸性と屈折性のどちらも原因になっていることが多く、この理論が必ずしもそのまま当てはまらないことも知られています。だからこそ、理屈で決めつけずに実際に測って確かめることが欠かせません。

大切なのは「その方がどこまで対応できるか」を測ること

測定させていただいたところ、F様には嬉しい発見がありました。

長年不同視とつき合ってこられた中で、左右の像倍率の差を脳内で補正する能力が身についていらっしゃったのです。

つまりF様の場合は、度数を弱めずに左右それぞれをしっかり矯正しても、十分に対応できそうだということがわかりました。

ここで大切な補足ですすべての不同視の方が同じように対応できるわけではありません。像の大きさの差にどこまで適応できるかは、その方の目と脳の使い方によって大きく異なります。度数を弱める対応が最適な方も当然いらっしゃいます。眼鏡処まどかでは、一律の方法を当てはめるのではなく、その方の適応能力を実際に測ったうえで判断することを大切にしています。

度数を変える以外にもできることがあります

サイズレンズ——像の大きさの差そのものを調整する

度数を弱めるという方法は、鮮明さを犠牲にして像の差を縮めるものでした。

これに対して、度数はそのままに、レンズのカーブや厚みの設計によって像の大きさだけを調整するレンズがあります。これをサイズレンズといいます。

眼鏡処まどかでは不等像視の検査を行っており、必要に応じてこのサイズレンズをご提案しています。鮮明さと像の差、その両方に手を打てる選択肢です。

光学中心の位置と、レンズまでの距離

先ほどのプリズム誤差は、視線が光学中心からどれだけ外れるかで決まります。そのため左右の光学中心を正確に合わせることが、不同視では通常以上に重要になります。

また、目とレンズの距離(頂点間距離)も像の大きさに影響します。フレームの選び方と掛け方の調整が、そのまま見え方に関わってきます。

「コンタクトレンズの方がいいのでは?」というご質問について

不同視について調べると、「メガネでの矯正は難しいのでコンタクトレンズを」という説明を目にすることがあると思います。

コンタクトレンズは目の表面に直接乗るため、メガネに比べて像の大きさの差が生じにくいとされます。屈折性の不同視では特に有利に働きます。

ただし、これは一律に当てはまるものではありません。先ほどの軸性の不同視では、理論上はメガネの方が像の差が小さくなります。またドライアイや装用時間、手入れの負担など、コンタクトレンズが向かない事情をお持ちの方もいらっしゃいます。

大切なのは「メガネでは無理」と決めつけずに、両方の選択肢を比べたうえで選べることだと考えています。

両目をバランスよく使えると、見え方はここまで変わる

人は両目をバランスよく使って見ることで、奥行きや立体感といった視機能を発揮し、また広い視野で見ることができます。

片方の目の情報が弱い状態が続くと、この機能が十分に働きません。

F様も、初めて両目のバランスを整えたメガネをかけていただいたとき、その見え心地の良さに驚いていらっしゃいました。

ビジョントレーニングを併せてご提案した理由

ただし、長年にわたって両目のバランスが崩れた状態でいらっしゃいました。

そのため、新しい見え方に体を慣らし、バランスを整えやすくするためのビジョントレーニングも併せてご提案させていただきました。

メガネで環境を整えることと、目と脳の使い方そのものを育てること。この両方を組み合わせることで、より快適な見え心地に近づけると考えています。

不同視をそのままにしておくとどうなるのか

大人の場合、不同視をそのままにしていても視力が失われるようなことはありません。

ただ、見えづらい方の目に頼らなくなり、片目中心でものを見る癖がつきやすくなります。その結果、奥行きや立体感を捉える力が十分に働かず、眼精疲労も起こりやすい状態が続きます。

実際にご相談の中では、本を読むときに行を飛ばしてしまう、遠近感が狂って距離をつかみにくい、といったお困りごとを伺うこともあります。ご本人は不同視が原因だとは思っていないことがほとんどです。

なお、お子さまの場合は事情が異なり、視力の発達そのものに影響する可能性があるため、早めの対応が必要です。

もう一つの事例——眼鏡を諦めていた学生さん

もう一件、印象に残っているご相談があります。

学習支援の場であるつばめ塾から相談にいらした、進学を控えた学生のIさんです。

以前にも眼鏡をかけようとしたことがあったそうですが、どうしても慣れることができず、諦めてしまっていました。

お使いだった眼鏡を見せていただくと、左右の度数差は多少あるものの、特におかしな箇所は見当たりません。

不思議に思いながら検査を進めていくと、Iさんは不同視の中でも左右差がかなり大きいタイプであることが分かりました。

そして以前の眼鏡は、まさに先ほどご説明した「強い方の度数を弱める」という一般的な手法で作られていたのです。

ところがIさんの場合、それが逆効果になっていました。左右の度数差を小さくしたことで、かえって両目のバランスが崩れてしまっていたのです。

左右の度数差を残したまましっかりと矯正したところ、むしろ楽に見えるようになりました。

Iさんの夢は臨床検査技師になることだそうです。お作りした眼鏡が、その道のりを少しでも支えるものになっていれば嬉しく思います。

年齢も背景もまったく異なるお二人ですが、共通しているのは「一般的な手法が、その人には合っていなかった」という一点でした。

教科書は出発点。そこから先は一人ひとりに合わせて

今回ご紹介した方法は、決して王道ではありません。

ですが教科書はあくまで一般的な方法論を述べているに過ぎない、とも感じています。

大切なのは常識にとらわれることなく、目の前のお客さま一人ひとりの個性に合わせて臨機応変に対応することなのだと、あらためて痛感した事例でした。

こんなお悩みがある方へ

  • 左右の度数差が大きく、メガネの見え方に満足できていない
  • 「片目の度数は弱めるしかない」と言われたことがある
  • 「不同視だからコンタクトレンズにするしかない」と言われた
  • 不同視のためメガネが作りにくいと言われた経験がある
  • 手元の作業をしていると特に目が疲れる
  • 本や書類を読むときに行を飛ばして読んでしまう
  • 遠近感がつかみにくいと感じることがある
  • 長年同じ方針のメガネを使い続けている

眼鏡処まどかでの対応

眼鏡処まどかでは、不同視の方に対しても一律の方法を当てはめるのではなく、その方が左右の像の差にどこまで適応できるかを実際に測定したうえで、度数のご提案をしています。

不等像視の検査を行い、必要に応じてサイズレンズもご提案しています。見え方を支えるビジョントレーニングのご案内も可能です。

今回のF様のように、遠方からお越しいただくこともあります。予約優先制で時間をかけて測定を行いますので、遠方の方は事前にご連絡いただけるとスムーズにご案内できます。

八王子の眼鏡処まどかでは、予約優先制で一人ひとりの見え方に向き合っています。「相談だけでも」「今の眼鏡を見てほしい」という方もお気軽にどうぞ。

FAQ

不同視とはどういう状態ですか?
右目と左目で度数(近視や遠視の強さ)に大きな差がある状態を指します。「ガチャ目」と呼ばれることもあります。片目ずつの視力は矯正で出せることが多い一方、レンズを通した像の大きさが左右で変わるため、両目で見たときに違和感が生じやすくなります。
不同視でメガネをかけると疲れますか?
左右で像の大きさが異なると融像に負担がかかり、また視線を下げたときに左右で生じるプリズム量に差が出るため、疲れや違和感につながることがあります。特に手元の作業で強く出やすいのが特徴です。度数の入れ方やレンズの選び方でこの負担は変わります。
不同視の左右差はどのくらいから問題になりますか?
一般的には2D(ジオプター)以上の差から問題になりやすいとされますが、実際にどこまで対応できるかは個人差が非常に大きい部分です。数値だけで判断せず、実際の見え心地を確認することが大切です。
不同視はメガネよりコンタクトレンズの方がいいですか?
屈折性の不同視ではコンタクトレンズが有利に働くことが多い一方、眼軸長の差による軸性の不同視では、理論上メガネの方が像の差が小さくなるとされています。一律にどちらが良いとは言えないため、ご自身がどちらのタイプかを確認したうえで選ぶことをおすすめします。
不同視をそのままにしておくとどうなりますか?
大人の場合、視力が失われることはありませんが、見やすい方の目に頼りがちになり、奥行きや立体感を捉える力が十分に働かない状態が続きます。眼精疲労も起こりやすくなります。お子さまの場合は視力の発達に影響する可能性があるため、早めの対応が必要です。
大人になってからでも見え方は改善できますか?
今回の事例のように、長年不同視とつき合ってこられた方が、適切な度数とビジョントレーニングによって見え心地の改善を実感されることがあります。ただし適応できる範囲には個人差があるため、まずは現在の状態を測定することからお勧めしています。

この記事を書いた人

眼鏡処まどか 店主

視力検査では異常がないのに見えづらい、疲れる。そういう方のための検査を専門にしています。

2015年に両眼視機能検査の勉強と実践を始め、2019年(令和元年)に八王子で開業しました。ドイツ式のポラテストをベースに、一部米国式の測定法を取り入れています。

検査にかける時間は1時間が目安です。じっくりお話を伺う必要がある方や、見え方に繊細な感覚をお持ちの方は2〜3時間かかることもあり、度数が安定しない方には日を分けて数回に分けて測定することもあります。

開業以来、延べ2,000人以上。八王子だけでなく、日野市・相模原市、遠方では宮城県からもお越しいただいています。